第16章 第2幕 ~ルイズとサイト~
第16章~トリステイン魔法学院~ 第二幕 ~ルイズとサイト~
彼の名前は平賀 才人。17歳、高校2年生。
優と同じ黒色の瞳と髪を持つ少年。運動神経は並、興味があることに打ち込むタイプで、成績は中の中。
性格は負けず嫌いで、義理堅くて、好奇心旺盛で、所謂考えるより行動が先に出るタイプ。
母親曰く、「もうちょっと先のことも考えなさい。あんたは人並み以上にヌケてんだから」
ヌケているだけにアクシデントに動じることが少なく、割と何でも受け入れる方である。
優がティファニアに召喚されたのと時を同じくして、彼がこの異世界ハルケギニアにやってきたのは、トリステインでも指折りの名門貴族の子女であるルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエールにより魔法学院の春の2年生進級の儀である『使い魔の召喚』によりこのハルケギニアに召喚され、右も左もわからぬまま、ほとんど強制的に主であるルイズに使い魔の契約を交わされた為であった。
ハルケギニアに召喚され使い魔の契約を交わされたというところまでは、優となんら変わらないのだが、優と才人には天と地ほども差のある大きな違いがあった。
一言で言うと、それは『主と使い魔の関係』。まさにそれである。
優がティファニアに召喚されたその日の晩のこと、二人の関係は『お友達』になることから始まった。
対して才人とルイズの関係はと言えば、『お友達』どころか彼の主であるルイズは、才人を人間扱いすることすらままならぬまま・・・そう、まるで犬や猫と同じような、ある意味、使い魔の肩書きにもっとも見合っていると言えるような関係から始まっていた。
先ずは二人が出会った時の様子を描いてみよう。
物語はルイズが才人を召喚した日の晩、トリステインは魔法学院の女子寮の一室。
「そんな話、信じられないわ」
開口一番、万人が万人に可愛らしいという印象を与えるルイズの小さな唇は、才人の全てを否定した。
「オレだって信じられねぇよ。でも月が二つもあるんじゃ信じるしかねぇよ」
「それって、どういうこと?」
「オレのいたところじゃ魔法使いなんて、少なくともおとぎ話の中にしかいなかった。
月も一つしかなかったな。それにもっとちっさいの」
「そんな世界、どこにあるの?」
可愛らしい顔に似合わぬ疑惑と不信の表情を浮かべながらルイズは尋ねる。
なかなか要領を得ようとしないルイズに才人は苛立ちを隠さぬまま、
「だからオレがいたところだっての!」
才人は怒鳴った。
「怒鳴らないでよ。平民の分際で」
「誰が平民だよ。失礼な」
「だって、あんたメイジじゃないんでしょ。だったら平民じゃないの」
「なんなんだよ。そのメイジとか平民ってのは?」
「もう、ほんとにあんたこの世界の人間なの?」
会話が振り出しに戻る。
才人はこめかみを引きつらせながら、
「だから!さっきから違うって言ってるだろがっ!人の話を聞いてねぇなお前」
才人が声を張り上げると、ルイズは切なそうにテーブルに肘をついた。
テーブルの上にはまるでウィスキーのグラスのような、幾何学模様の施されたランプが置かれ、薄暗い部屋を照らしている。
黙り込んでしまったルイズに向けていた才人の視界に、淡く揺れる緑の光が映る。
どうやら電気は通ってないらしい。
まったく、手の込んだつくりしてるじゃないか。昔、家族旅行した時に行った異人館の中みたいだ。ほんとに中世に迷い込んじまったみたいだよなぁ、などと才人が思ったその瞬間、彼の心から帰郷の念がとめどなく溢れ出した。
才人はこの上なく切ない声でルイズに懇願した。
「お願いだ。そろそろ家に帰してくれないか?」
「無理」
即答で一蹴されてしまった。
「・・・なんでだよ」
「だって、あんたはわたしの使い魔として、契約しちゃったのよ。
あんたがどこの田舎モノだろうが、別の世界とやらから来た人間だろうが、一回使い魔として契約したからには、もう動かせない」
つまり才人はこれまでの人生、彼の世界から、突然に、唐突に、何の前触れなく切り離されたということになる。
「ふざけんな!」
いい加減、才人の感情のタガもはずれかかるところまできていた。才人の声は怒鳴り声というよりは慟哭に近いような状態になっている。
ルイズは負けずに大声で、
「わたしだってイヤよ!なんであんたみたいなのが使い魔なのよ!」
「だったら帰してくれよ!今すぐ!」
「だから無理だって言ってるでしょ。・・・それよりあんた、ほんとに別の世界から来たの?」
「だからそう言ってるじゃねえか!」
「なんか証拠を見せてよ」
言われて、才人は何か証拠になりそうなものが何かないか、自分の所持品を思い浮かべる・・・までもなかった。自分の持ち物と言ったら一つしかない。
「なにこれ」
「ノートパソコン」
後で自分が横たわっていた草原で見つけた、唯一の持ち物。
「確かに、見たことがないわね。なんのマジックアイテム?」
「魔法じゃねえ。科学だ」
現物を見せても信じる素振りを見せないルイズの質問を一口で返すと、才人は電源をつけた。ブーンとノートパソコンが小気味のいい音を立てて起動し始めた。
「うわぁ・・・。なにこれ?」
「起動画面」
「綺麗ね……。何の系統の魔法で動いてるの。風? 水?」
さっきとは違う、きょとんとした無邪気な表情でルイズは才人を覗き込む。
「だから魔法じゃねえっつうに。科学だ、科学。電気だよ」
「デンキって、何系統?四系統とは違うの?」
才人は両手を上げてぶんぶんと上下に振るう仕草をする。まるで理解を得る気配のないルイズの発言が鬱陶しくなってきた様子。
「あぁもう!とにかく魔法じゃねえ!」
才人の様子を気にかけることもなく、ルイズはベッドに深く座り込むと、つまらなそうに足をぶらぶらさせながら両の手を広げると、すました顔で、
「ふーん。でも、これだけじゃわかんないわよ」
「なんで?こういうの、こっちの世界にあるのか?」
さすがに才人の当然の疑問にはルイズも認めざるを得ないらしく、唇を尖らせながら、
「ないけど・・・」
「だったら信じろよ!わからずや!」
ああもう!とルイズは勢いよく首を振り、大きくため息をつくと、
「わかったわよ!信じるわ!」
「ほんと?」
腕を組み、首を傾げてルイズは怒鳴る。
「だってそう言わないと、あんたしつこいんだもん!」
アレ?結局、わかってなくね?と才人はガックリと両肩を落としながらも、
「まあ何にせよ、わかってくれればいいや。そいじゃあ帰してくれるよな?」
「無理よ」
「なんで!?」
ルイズは困った顔になると、才人にとどめの一撃を放つ。
「だって、あんたの世界と、こっちの世界を繋ぐ魔法なんてないもの」
「じゃあ、なんで俺はこんな所にいるんだよ!」
「そんなの知らないわよ!」
もう今日だけで何度目になるのだろうか?ルイズと才人は睨み合うが、それはルイズのついたため息であっけなく終戦を迎えた。
「あのね。ほんとのほんとに、そんな魔法はないのよ。大体、別の世界なんて聞いたことがないもの」
「自分で召喚しといて、そりゃないだろ!?」
まったくである。
「召喚の魔法、つまり『サモン・サーヴァント』は、ハルケギニアの生き物を呼び出すのよ。
普通は動物や幻獣なんだけどね。人間が召喚されるなんて初めて見たわ」
「召喚したのはお前じゃねえか・・・だったら、もう一度、その召喚の魔法を使え」
「どうして?」
「元居たところに戻れるかもしれない」
「――無理よ。『サモン・サーヴァント』は呼び出すだけ。
あんた、呼び出される前になんか見なかった?」
「鏡みたいな何かが目の前に出たけど・・・」
「それよ。召喚に応じそうな相手の前に門を、つまり``ゲート``を作り出す魔法なの。
使い魔を元の場所に戻すことは出来ないわ」
「いいからやってみろよ。試したことはないんだろ?」
「ないわよ。そもそも、今は唱えることすら出来ないもの」
「どうして!」
「『サモン・サーヴァント』の発動条件はね」
「うん」
「詠唱するメイジに、使い魔が居ないことが条件なの。たとえば、前の使い魔が死んじゃったー、とかね」
「・・・なんですと?」
「死んでみる?」
「いえ・・・間に合ってます」
拙い希望も儚く散り、才人はがっくりと頭を垂れる。ちょうどルーンの刻まれた左手が目に入った。憎々しげにそれを見ていると、ルイズは立ち上がり腕を組んで一言告げる。
「ああ、それね」
「うん」
「わたしの使い魔ですっていう、印みたいなものよ」
そう言われて、才人は改めてルイズを見つめる。口さえ開いてなけりゃ、確かに可愛らしい。すらりとのびた足、細い足首が支える体はそんなに大きくない。身長は150あるかないかといったとこだろうか。
フワリとした柔らかそうな桃色をしたブロンドの髪、まだ幼さを残す顔立ちにまるで子猫のようによく動く目、その真上にはいかにも生意気そうな微妙なラインを描いた眉が走っている。
出逢ったのが出会い系の掲示板でもあれば跳ね上がって喜んだものだろうに、と思ってはみるものの、ここは日本でもなければ地球ですらない。帰りたいけど帰れない。才人は切なくなって椅子にへたり込んでしまった。
部屋にしばしの沈黙が流れた。
「……しかたない。しばらくはお前の使い魔になってやるよ」
まるで気のなさそうな声で才人は承諾する。
「なによそれ」
「なんか文句あんのか?」
「口の利き方がなってないわ。『なんなりとお申しつけください、ご主人様』でしょ?」
ルイズは得意げに指をたてて言った。
仕草は可愛らしいのに、それを見る才人の表情は腹立たしさを表すように口元がひくついていた。
「へいへい。ところで、使い魔って何すりゃいいんだ?」
「まず、使い魔には主人の目となり、耳となる能力が与えられるはずよ」
「それって?」
「使い魔が見たり聞いたりしたものは、主人にも見えたり聞こえたりすることが出来るのよ」
「つまり、プライバシー皆無ってこと?」
「大丈夫よ、あんたじゃ無理みたいだから。わたし、何にも見えないし聞こえないわよ?」
「そうか、そりゃよかった」
「よくない!・・・まあ、人間がこんな能力持ってても使い道ってそうそうないわね。次」
ルイズはこめかみを押さえて、ため息をつく。
「普通の使い魔は、主人の望むものを見つけてくるのよ。秘薬とかね」
「秘薬って?」
「特定の魔法を使う時に必要な触媒のことよ。硫黄とか、結晶石とか・・・」
「へぇ」
「これもあんたには関係なさそうね。秘薬の存在すら知らないんじゃどうしようもないし」
「まぁ、無理だな」
「次」
ルイズは苛立たしげに言葉を続ける。
「これが一番重要なんだけど……、使い魔は、主人の護衛でもあるのよ。その能力で、主人を敵から守るのが役目!・・・って、これもあんたじゃ無理よね?」
才人が柔道や空手の有段者でもあればまだいくらかは違ったかも知れないが、優と同じく彼は完全なド素人だった。
優と違っていることと言えば、せいぜいマジのつく喧嘩が2~3度あるだけだった。
「人間だもん・・・」
「・・・強い幻獣だったら頼れるんだけど、あんたじゃカラスにも負けそうだもんねぇ」
「うっせ」
「だから、あんたにできそうなことをやらせてあげる。洗濯、掃除。その他雑用」
「ざけんな。見てろよ、そのうち絶対帰る方法を見つけてやるからな!」
「はいはい、そうしてくれるとありがたいわ。
あんたが別の世界とやらに消えてくれれば、わたしも次の使い魔を召喚できるもの」
「んにゃろ・・・」
才人の決意も軽く聞き流してしまったルイズは、片手を口に当てて小さなあくびをした。
「はぁ。しゃべったら、眠くなっちゃったわね」
「俺はどこで寝たらいいんだ?」
ルイズは毛布を一枚引っ張り出すと、他所を見ながら床を指差した。彼女の言いたいことを嫌が応でも察した才人はもはや達観したような表情で、
「・・・犬や猫じゃないんだけど」
「しょうがないじゃない。ベッドは一つしかないのよ」
唐突にワケのわからぬ異世界に召喚されて、帰る術すら持たぬまま床に雑魚寝を強いられる才人。ちなみに優は造りこそ粗末だったが、布団のある木造のベッドだった。
毛布を一枚投げてよこしてくれるだけ、マシといったところだろうか。 才人の主人であるルイズ。彼女なりに気を使ってくれたのかもしれない。
大きくため息をついて毛布を広げていると、いきなり才人は度肝をぬかれた。
ルイズのほうに目をやったら、ルイズがブラウスのボタンを尽く外して脱ぎ去ろうとしていた瞬間だったからだ。
才人の時が数秒ほど止まった。そして、再起動。
「な、な、なな、なにやってんだ!?」
慌てて他所を向きながらルイズに問い質す。
「なにって、寝るから着替えてるのよ」
「俺のいないところで着替えろよ!」
「なんで?」
「なんでって、おま、あのな。まずいだろ!流石に!」
「わたしは別にまずくないわよ」
「なんで!?魔法使いってそうなの!?男に見られても平気なの!?」
「男?誰が?あんたはわたしの使い魔でしょ。使い魔に見られてもなんともないわよ」
こともなげにそう言い放つルイズ。そして、ぱさり、ぱさりと才人に向かって何かを投げつけた。
「あ、それ明日になったら洗濯しといて」
なんだろう、と思って床に座り込んで取り上げてみたが、それが間違いだった。レースのついたキャミソール。そして、パンティ。白い。純白。精巧で緻密なつくりをしているなぁと、才人の沸騰した頭が手にした下着類を丁寧に見定めている。
それから急に歓喜と、屈辱と、恥辱が入り混じったなんとも形容しがたい感情が胸の奥からとめどなく溢れ出た。
「ふざけろ!なんでオレがお前の下着を!!いや!嬉しいけど!!でも、ふざけるな!!」
数えるのも愚かしくなるような才人の怒号がまた部屋に響く。しかしルイズは意にも介さず、ピンク色の透き通ったネグリジェを頭からかぶろうとしながら、
「誰があんたのご飯の面倒みるの?誰があんたを養うの?ここ、誰の部屋?」
「うぐ」
呆気なくルイズに一蹴されてしまい、才人は言い返すこともできなくなってしまう。才人に言いながら着替えている間、才人の目の前にはルイズの細やかな肢体が露わになっていた。ランプの淡い光ではっきりとは見えないが、年頃の美少女が年頃の少年の前で文字通り一糸纏わぬ姿を晒し、なおかつ寝巻きに着替える様をご丁寧に一から順に披露してくれていたのである。
ルイズは本当に才人に肢体を見られても、恥ずかしくもなんとも思っていないようだ。なんだか悔しいと才人は思う。人として、男として、全てを否定された気分だった。自分の全てを否定され、ただただ落ち込む才人にルイズは当然といった様子で声をかける。
「あんたはわたしの使い魔でしょう? 洗濯、掃除、雑用、当然じゃない」
それだけ言うとルイズはパチンと指を鳴らす。
すると指音にあわせるようにランプの灯が消えて、部屋は暗闇に包まれた。
ランプまで魔法仕掛けかよ・・・確かにこりゃ電気いらんわなぁ。
などど暢気な考えを巡らせながら、才人は床に横になった。
そしてすぐ傍のベッドで眠りはじめたルイズに目をやると、
「はぁ。こいつ、絶対俺のこと犬かなんかと思ってやがるな……。毎日こんなんじゃ、身がもたねぇよ」
もう、今日何度目なんだかわからないため息をついて、天井を見上げる才人。
「帰れねぇ、んだよなぁ……」
こぼれた声は、悲壮そのものの音をかたどっていた。
もう、好物は食べられない。てりやきバーガーなんてものが電気すらない世界にあるとは思えない。
もう、ノートパソコンは使えない。インターネットなんて存在してるわけもない上に、そもそも充電ができない。
もう、友人にも、家族にも会うことは出来ない。みんな、向こうの世界にしか居ないのだから。
考えれば考えるほど、哀しみに押し潰されそうになっていく。涙がこぼれそうだった。帰れないだけならまだしも、いや、全然まだしもなんてものじゃないのだが、今はそれは置いておこう。
目下の問題は、暗くなった部屋で小さく寝息を立て始める可愛くもかわいくないルイズと名乗る少女であった。
逃げ出そうか?とも考えたが、逃げ出したとしてどうするアテもない。他所の人に帰り道を尋ねたところで、彼女の反応を見るに変人か気違い扱いされるのが関の山だろう。こうなるともう、本当にどうしようもない。
絶望感に打ちひしがれて、才人は毛布を頭から引っかぶった。寝心地はよくない。なにせ敷布団は手造り感溢れるフローリングなのだから。5分と経っていないのに、もう背中が痛みを感じ始めた。
痛みを紛らわそうと毛布を全身に包めて、まるでみの虫のような格好をとると、段々痛みは大分和らいできた。思いのほか人間は逞しくできているもので、痛みが和らぐと今度は眠気が先に立ってきた。
眠気が先に立つと、先程まであれだけ打ちひしがれた絶望もなりを潜め、持ち前のプラス思考が心を包み始めた。それは思考を軽く上回る速さで揺り動く状況に、自ら心に安全弁をかけているとも言えるかもしれない。
確かに今は帰れないけれど、この世界には前の世界にはなかった面白いことがたくさんある。
どうせ帰れないんなら、この世界を出来る限り楽しんでみようじゃないか。
うん、そうしよう。
良くも悪くも高い彼の順応性は、どうやら彼を守り抜いたようだ。
こうして才人の使い魔としての生活が始まった。
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コメント
まとめというかリンクページを作ってもらえませんか?
最初のページを探すのにえらく苦労しました。
投稿: | 2009年3月28日 (土) 21時23分