新話投稿しました
こんにちは、ご無沙汰しております、ヤンマーです。
遅ればせながら新お話投稿致しました。
リハビリもかねての投稿ですが、例によって続きが完成次第改訂版を投稿してまいります。
若干、マチルダがティファニアにセクハラまがいのことをしております。
ここは姉妹のじゃれあいという事でご容赦ください。
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こんにちは、ご無沙汰しております、ヤンマーです。
遅ればせながら新お話投稿致しました。
リハビリもかねての投稿ですが、例によって続きが完成次第改訂版を投稿してまいります。
若干、マチルダがティファニアにセクハラまがいのことをしております。
ここは姉妹のじゃれあいという事でご容赦ください。
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第17章~神の御心、神の杖~
中編 ~誇りの在り処~
「うぅ~・・・。ね、姉さん、苦しい・・・」
心底窮屈そうな様子で、ティファニアは堪りかねて悲鳴をあげてしまう。
「ほら!テファ、我慢おし!」
マチルダは母親のような口調と仕草で、ティファニアに魔法学院の制服を仕立ててやっていたのだが、彼女の肢体があまりにも豊満すぎた為、見合ったサイズの服を用意するのにも一苦労のようだった。
「でも・・これ、ちょっときつすぎる~・・・」
服のきつさに耐えかね、情けのない声をあげるティファニア。
純白した薄布が、ティファニアのしなやかな身体にアンバランスについた西瓜のような大きさの胸を、かろうじて覆ってはいるものの、マチルダがやっとこさ繋ぎとめたブラウスのボタンは限界まで張り詰めてしまっている有様で、今にもはちきれそうな状態だった。
「う~ん・・・。あんた、また大きくなったわねぇ。
一体、なに食べたらこんなに育つのかしらねぇ?
胸の割に腰まわりは細いし、・・・っとに、羨ましいわね・・・」
呆れたように、女性特有の悩みと羨望を遠慮なく吐露するマチルダ。
ティファニアはジト目で述べるマチルダに対し、返答に困ってしまっている。
「なにって・・、そんな・・、ヘンなもの食べたりしてないわ。みんなと同じよ?」
「にしてもねぇ・・、奥様以上だわ、こりゃ・・・」
「え?母さまより?そうかしら?」
「そ・う・だ・わ・よっと・・、っしょ・・、これでよしっと。
ほらテファ?鏡むいてごらん」
ようやくブラウスの最後のボタンをとめたようだ。
ポンポンとティファニアの腰を叩くと、改めて彼女の格好を確かめてみる。
「ど、どうかしら?姉さん・・・?」
「う~ん・・。やっぱり、胸がぎつぎつねぇ。
しかも、『先のかたち』でてるし・・・、こりゃ雨にでもうたれた日にゃ丸見えだわ・・・」
「ま、丸見えって・・、そんな、困るわ・・・」
「いいじゃないか。ユウが喜ぶかもしれないよ?」
「えっ!?ユウが?そんな・・、だけど・・、ユウなら・・、う~・・、でも・・、ほんとに・・、ほんとに、そうかしら?」
もじもじとしながら、頬に両手をあてて肯定と否定のあいだを彷徨うティファニア。
「ねえさんっ!わるい冗談勘弁よ!テファ、本気にしちゃいそうだよ!?」
ドアの向こう側から優が慌てて怒声を張り上げる。
「えっ!?ユ、ユウ?」
「おや、聞いてたか。もう``読振``をマスターしたか。
・・にしてもこの距離で、あの小声を聞きとるとは・・、やるわね」
自身の形のいいラインを描いた顎に手を添えると、土系統のトライアングルメイジでもあるマチルダはいたって冷静に、そして感心したように呟く。
「え!?姉さん、まさか・・、冗談だったの?」
「ほらほら、シエスタさん?もうひとまわり大きいのを見繕ってくださらない?
このサイズじゃ、この娘に合いそうにないわ」
慌てて問いただすティファニアをそっちのけにして、マチルダはさっきから傍らで神々しいまでに美しいティファニアの容姿に見とれて呆けてしまっていた黒髪のメイドの少女に替えの上着を催促する。
「・・あ。は、はいっ!失礼しましたっ!ただいまっ」
シエスタと呼ばれたメイドの少女は、それでようやく我にかえったのか、慌てて部屋を飛び出していってしまった。
「もうっ!!姉さん!?」
ティファニアの憤りもそ知らぬまま、マチルダはごそごそと懐からあるものを差し出す。
「ほら、テファ。これつけてご覧よ」
「え?な、なにこれ?」
彼女のが差し出したものは、丸い形をした青地の布がふたつ。連なるように細い紐で止められた、現代で言うブラジャーのようなものだった。
「私が酒場でつけてたもんさ。
胸のラインは仕方ないにしても、先まで出してちゃ、色に飢えて血迷った男共に襲ってくれって言ってるようなもんだからねぇ」
「だけど、これ・・って、どうすれば、いいの?」
両手で掲げるように持ってみるのだが、使途がさっぱりわからず、困った表情で伺うティファニア。
パチンとマチルダの何かが音をたててきれた。
「あ~!もうっ、じれったいわね!!ほらっ!さっさと脱いで、後ろ向く!」
いい加減、じれったさに耐えかねたのか、マチルダは強硬手段に出た。
「え?え?ちょっ、ちょっとまって姉さん!脱げる!自分で脱げるから!」
ティファニアは慌てて胸元を両腕で押さえ隠すものの、そこはマチルダもさるもの、防御に徹した彼女の白い肌をくすぐりにかかり、こちょこちょに耐えかねて、くすぐる手をほどこうとティファニアが、自身の胸を覆い隠した腕を解いた瞬間を手際よくつく。
マチルダは、なんとティファニアの胸を揉みにかかったのである。
「っっ!!ね、ねえさんっ、やめてっ!!む、むねはやめてってばっ!!」
その間もずっと、なにやら楽しそうに、ティファニアで遊びながらぽいぽいとティファニアが纏っていた薄布を引き剥がしていくマチルダ。
その表情は、さながら悪鬼じみた笑みを写していた。
・
な~にしてるんだろうね・・・?あの姉妹は・・・。
これ以上はティファニアのプライバシーに関わると思い、壁にあてていた手を放して、向かいの壁に背を預けるようにながら、呆れたようにそんなことを思う優。
なにやら、また声が伝わってきた。
「きゃあっ、ど、どうして下まで・・・」
「ほらほら!ついでだから下の丈も計ってあげるわ!」
「~っ!!ま、まって!下はへ、平気よ・・?平気だってばっ!!」
した?上替えるのに下?なんで下?
まさか・・、今、もしかするとテファは、彼女は・・・?
はだか?
``読振``を使うまでもない。遠慮のない姉妹のやりとりは、部屋の外からでも中の声が丸聞こえになってしまっていた。
部屋から伝わる音を察するに、もうティファニアは着ていたものすべて、マチルダにひんむかれてしまっているらしい。
そんな・・・、なんて、なんて・・・、けしからない・・・。
優はそこまで連想すると、出逢ったばかりの頃の時、あの出来事を思い起こしてしまう。
あのふくよかで、あたたかくて、たとえようのない心地よさを与えてくれたあの感触を・・・。
するとまた、ボン!っと、小気味のいい音を立てて、優のブレーカーは弾け飛んでしまった。
・・・ねえさん?テファはお人形さんじゃ、ないからね・・・?
うつろいゆく意識の中で、無力感と煩悩に苛まれながら、優はぽつり一言、そう呟いた。
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こんばんわ、ご無沙汰しております、ヤンマーです。
前回の投稿より1ヶ月が経過してしまい、音沙汰もなしに大変失礼致しました。
今後のお話を描くにあたり、もう一度お話を見直してみますと、改良の余地が多すぎて心が折れそうになりかけてしまいました。
そんな中で先日、恐れ多くも原作の挿絵を担当されている兎塚エイジ先生にお会いする機会を持てました。
ご挨拶の中で、ゼロの使い魔の2次創作を描かせてもらっていることをお話したところ、とても快く受け入れてくださいまして、激励の言葉を頂戴してしまいました。
兎塚先生、本当にありがとうございました。この場をお借りして、改めましてお礼申し上げます。
本来であれば、すぐにでも続編描いて投稿するべきところなのですが、若干スランプ気味であるのが正直なところです。
原因のひとつに最近、皆様の激励のお便りに混じって、風俗関連の書き込みが入ることが多々あります。
これを見る度に、心が折れてしまうのです。
反面、1ヶ月以上も音沙汰のない当サイトの更新を楽しみにしていただいている皆様に申し開きができないこともあいまって、今までご連絡が滞ってしまいましたことをお詫び致します。
描きたいと思っている今後の物語の構想自体はあるのですが、皆様にそっぽ向かれるのを怖がっているのが今の心境です。
現在、HPの方に改訂を加えましたお話を投稿しております。
お話が読みにくいと多々苦情をいただきましたので、この機会に当サイトの整理を行おうと考えました。
よろしければ今後ともお付き合いいただければ幸いです。
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第17章 ~神の御心、神の杖~
前編 ~虚ろゆく世界の、すべてについて~
夢を見た
ひどく虚ろな、世界の狭間のような場所に、僕はひとり
泣いている彼女の傍で、想いはおろか慰めることすらできず、
ただ悔やみながら、届くことのない想いを届けようとひたすらに叫び続ける
とても哀しく、とても愛しい、そんな夢を
※
まるで演劇の舞台のように、闇の中でスポットライトのような明かりに照らされた彼女は、いわれのない恐怖と、罵りを受けていた。
「動いちゃ駄目!!あなたたち、皆ひどい怪我だったのよ?無理をしてはだめよ、傷に響くわ」
「く、くるなっ!!悪魔めっ!!僕達をどうするつもりだっ!!」
「だ、大丈夫。心配いらないわ。なにもしたりしないから・・・」
「うわぁっ!!くるな!くるな!くるな!!近寄るなっ!!」
「とにかく!お願いだからじっとしていて?まだ傷が塞がったばかりなのだから・・・」
芝居をみる観客のように、離れた場所でそれを見ていた優は、心のどこかでこれが夢だと気付く。
もしかしたら使い魔のルーンが、優の知らないティファニアの過去を、それともこれから起こるであろうかもしれない正夢を見せているのだろうか?
なんにしても、今はそんなことはどうでもいい。
過去だろうと予知夢だろうと、目の前でティファニアは恐れられているということに変わりはないのだから・・・。
気付いた瞬間には、芝居の舞台が変わるように場所も彼女を取り巻く役者も変わっていた。
「テファ姉ちゃん!!やっぱりこんなやつら、放っておけばよかったんだよ!」
一番に声を荒げるのは子供達の中で一番年長のジャックだ。
ティファニアはやんわりと諭すように、
「そんなこと言ってはダメよ、ジャック?」
「でもっ!こいつら姉ちゃんに助けてもらったくせにっ!!」
納得のいかないジャックに相槌を打つように、子供達は口々に声を荒げ始めた。
「そうだよっ!!テファ姉ちゃんの指輪、こんなに小さくなっちゃったよ!?
あんなに大切にしてたのに!なのに・・・それなのに、ひどいやっ!!」
「みんな。やいのやいの言わないの。
・・・わたしなら平気よ?それに・・道具はね、使う為にあるものよ?
仕方がないわ。わたしはエルフの混じりものだから・・・」
ティファニアはそう言うと、穏やかな微笑を浮かべる。
それはとても美しく、ひどく自嘲を含んだ、言いようのない哀しい笑顔だった。
彼女が理不尽に罵られる様子を、彼女の傍らでずっと見せつけられていた優は思わず叫んだ。心からの叫びだった。舞台はまた、変わっていた。
嘘だっ!!
平気なわけがないよ。
だって、君は泣いてるじゃないか。なのに、僕は、僕は・・・。
こんなに辛い目に遭っている君に、僕はなにもしてあげられない。
君がこんなに悲しんでいるのに!僕はこんなに近くにいるのに!誰よりも君の傍にいるはずなのに・・・。
僕は泣いている君に、なにもしてあげることができないなんて・・・。
こんな時に、こんな大事な時に・・・。
優はこんなに美しくて、優しいティファニアが無慈悲に罵られるのが、ただ悔しくて、哀しくて、理不尽にティファニアが世界から拒絶されるのがなにより辛くて、届かないと分かっていても、これが夢だと分かっていても、想いを吐露せずにはいられなかった。
僕は言いたい!君に伝えたい!
みんなの言うとおりだ。君は何も悪くない。
なのに、どうして君がこんなに傷つかなくちゃいけないの?
どうして君が拒絶されなくちゃいけないの?
どうして君が幸せを諦めなくちゃいけないの?
君はこんなにやさしいのに・・・。
君はこんなに素敵な女性(ひと)なのに・・・。
それなのに、誰よりも君の傍にいるはずの僕は、誰よりも大好きな君を慰めてあげることも、励ましてあげることもできない。
僕は君に見えないところで、みっともなしに泣くしかできないなんて・・・。
僕は、なんて・・・情けないのだろう。
悔やむだけ悔やむと、膝を崩して泣いているティファニアの肩にそっと手を添えて、優は語りかけた。彼女に届かない、彼女に聞こえないと分かっていても、そうせずにはいられなかったから。
ねぇ、テファ?
僕のわがままを聞いてくれないかな?
あのね、どうか泣かないで?どうか悲しまないで?どうか、幸せを諦めないで?
もし、僕の声が君に届いたら、君は笑ってくれるかな?
もし、僕の姿が君の目に映ったら、君は喜んでくれるのかな?
もしそうだったら、すごく・・すごく、うれしいな。
それだけ言うと、優は少し間をおいて、大きく息を吸い胸を張って、本当に伝えたい言葉を述べた。
あのね?僕は君のことが好きだよ。ほんとだよ。
けど、君を幸せにできる男性(ひと)。君がほんとうに好きな男性が、僕でなければそれでもいい。
それで僕は辛くないなんて嘘だけど・・・だけど、ひとりぼっちで泣いてる君を見ている方が、僕はずっと辛い。
もし、そうなったら僕のことは気にしないで?
君がみんなに言ってた平気より、ずっと平気だからね。
あのね。僕が二番目にほしかったものは、君からもうたくさんもらったよ。
だから、僕が一番ほしいものは、どうか君が受け取ってほしい。
僕が一番ほしいものが、どうか君に届くように。
それが僕のわがまま。それが僕の願い。それが、僕の一番ほしいもの。
気持ちをひとしきり吐露したら、なんだか気が緩んだように優は微笑んだ。
もし、これが伝わったら君はどんな表情(かお)してくれるかな。
呆れて笑っちゃうかな?いいかっこし過ぎってさ。
それとも喜んでくれるかな?できれば、そのがいいんだけどな。
ねぇ、テファ?
夢の中で優がそう告げると、彼方から声が聞こえてきた。
清らかな、まるで清流のように綺麗で、とても心地のいい声。
遠くで、優の好きな彼女が、ティファニアの呼ぶ声が聞こえる。
もうじき目が覚めるのが分かる。
夢じゃなく、現実に自分を呼んでくれる、自分を傍においてくれる彼女がいる。
そんな、夢のような現実に・・・。
声に気付いた優は、まだ泣き崩れたままのティファニアの背に手を添え、できるだけ優しく背中と肩を撫でると、
ごめん、僕はもう行かなきゃいけないみたい。
でも大丈夫。安心して?
きっと、きっとまた、いや必ずここに来るからね。
だから、だからその時まで・・・
さようなら。優がそう別れを告げようとした時、世界は光に包まれた。
緩やかな光に包まれ、おぼろげに薄れゆく世界の中で彼女は、確かに微笑んでいた。
※
魔法学院は教職員用の寮塔、ここはマチルダの私室。
窓から差し込む眩い朝の日差しの中、早くから起きて身支度を整えたマチルダ。
清らかな新緑を彩る髪を後ろで結って、現代で言うならOLが着こなすスーツのような服の上にマントを羽織った格好は、見るからにいかにも優秀な秘書といった格好である。
しかし、そんな格好をした彼女は今、まるで祈りを捧げるかのように両の手を胸にあてて組ながら、瞳を閉じて誓いの言葉を述べている。
いかにも大切なものを包み込むように組まれた手の中には、淡い水色を彩った光を煌かせる宝石がはめ込まれた指輪が握られていた。
そんな彼女が祈るように誓いを立てるのは始祖でもなければ、ましてや異教の神でもない。『祈りを捧げて願いが叶うのなら世話はない』とは、彼女の人生を象る言葉のひとつである。
さて、そんな彼女が誓いの調べを向けるのは今は亡き女性(ひと)。
母を知らぬ自分に母親の温もりを教えてくれた人。
蚊ほども血の繋がりを持たぬ他人である自分にでさえも、慈愛という名の愛情を注いでくれた人。
強く気高い彼女の『娘』のひとりとして、彼女が愛した子供のひとりであるマチルダも心から慕い、そして愛していた女性。
そう、他でもないティファニアの母である。
「かあさま。彼が本当にティファニアに・・。かあさまの大切な忘れ形見に相応しいか、この私が・・このマリーが、必ず見届けますわ。
・・・どうか、ご安心ください。かあさま・・・」
過去は捨て、全てを失ったという彼女。
そんな彼女が忘れることも、ましてや捨て去ることなどできなかったもの。
幸せを求め、そして確かに幸せに満たされていた過去に想いを馳せながら誓いを述べると、指輪を見つめて、とても穏やかな微笑みを浮かべるマチルダ。
朝焼けの日差しに照らされた彼女は、美しく凛とした女性を醸している。
そんな、なんとも云えない厳かな部屋の雰囲気はこんこんと、軽いノックにかき消された。
「・・はい?どなたかしら?」
マチルダはすぐに指輪を小箱にしまい、軽く杖を振るって箱に施錠を施し来客に応える。
彼女の部屋に訪れたのは、彼女がよく見知った人物だった。
※
朝日の光が窓から差し込む中、ティファニアが心配そうにようやく目覚めて、まだまどろみのまっ最中といった様子の優を伺うようにしている。
「ユウ、随分うなされていたわよ・・・?
呼んでも目を覚まさないものだから・・わたし、もうどうしようかと・・・」
ぼんやりとティファニアの問いかけの声に反応する優。
「・・・テファ?」
「うん?どうしたの、ユウ?そんな驚いた表情して・・・?」
テファだ。今ここにテファがいる。声と手が届くところに、こんな近くに彼女がいる。
ティファニアが傍にいることが、優の寝ぼけた頭にカンフル剤を打った。
優はぎゅっと彼女の温もりを、彼女の存在を確かめるようにティファニアを抱き締めた。
「きゃ・・・ゆ、ユウ?いったい、どうしたの?」
なにがなにやらわからぬまま、いきなりぎゅっと抱き締められてしまって、どうすることもできずにティファニアは戸惑いの声をあげる。
「ごめん・・・。ごめんね、テファ?僕は、僕は・・・」
「ユウ?泣いて、いるの?」
「・・ごめん、訳は後で必ず話すよ。だから・・だから今は少しだけ、もう少しだけ・・このままでいさせて?」
ティファニアの細い背に手を回して優はぼろぼろと涙を零し、彼女を抱いたまま泣いていた。
他の誰でもない、ティファニアを想って、優はただ泣いていた。
※
「・・・で、それであんたは今、テファに抱かれて泣き崩れてるまっ最中ってワケかい?」
窓に当てていた指を離すと、片手を額にあててマチルダは呆れた声をあげた。
彼女は今、ティファニアの部屋の外で足を組んで座った格好をとりながら宙に浮かんでいる。
メイジの基礎のひとつ、``レビテーション(浮遊)``である。
マチルダは宙に座るような格好で、中にいるティファニアに気付かれないよう外壁に指を当て、ほんの微かに石造りの壁に伝わる音の振動を読み取って部屋の中の会話を聞いていたのだ。
``土``系統のトライアングルメイジである彼女にとっては、なんら造作のないことだった。
そんな呆れたような様子のマチルダの隣には、今まさに部屋の中でティファニアを抱き締めて涙を流しているはずの優がいる。
「ん~、まぁ・・そういうことになるかな。でもしょうがないよ。
ほんとに嫌な夢だったんだよ?テファがかわいそうでさ・・・。
それにしても、なんか変な感じだねぇ・・。
生で自分で自分の泣く様見れるのって・・・なんだか気恥ずかしいような、もどかしいような・・・。う~ん、変な感じ。ビデオ見るのとは違うな、やっぱり」
のほほんと感想を述べる優を見て、マチルダはハァとため息をついて呆れたように額に手を当てると仕草をすると、
「それを自分で言うかね?壁の向こうに泣き崩れてるあんたがいて、片や私の隣に呑気に実況見分してるあんたがいるって・・・。そろそろ驚くのも飽きてきたよ・・・」
先程の来客は優だった。
迎えにいく手間が省けたと思ったら優が手を引いて空の散歩に誘うので、しょうがなしに来てみた先はティファニアの部屋の外。文字通り窓の外である。
他の人間が見れば、メイジでもなんでもないただの平民であるはずの青年が、杖もなしに空に浮いているのは度が過ぎるほどの驚嘆に値するのだが、ここにきて驚愕に対する免疫を鍛えてしまったのはどうやら優だけではないようだ。
相手は伝説の使い魔を担う優だ。このくらい造作ないだろうとアタリをつけて来てみれば、部屋の中にはたった今手を引いてきたはずの優がもう一人、ティファニアを抱き締めて泣いている。
これにはさすがのマチルダも言葉を失った。
「まったく。朝イチに尋ねてくるから何かと思えば、そろそろ魔法が切れそうだから唱えなおせとはね。
あんたの能力ってのは、大したことあるんだかないんだか・・・」
困ったように片手を後ろ頭にあてて擦るようにして、優は苦笑したまま応えた。
「しょうがないよ。僕自身勝手がよく分からないんだから。
・・なんて言うかな?もう感覚任せ、そん時任せなの。できたりできなかったりするの。
いくらなんでも、そう万能じゃないと思うよ?」
「ハァ・・・話にゃ聞いたことがあったけど、まさかこんな形で実際をお目にかかるとはねぇ・・・。
わざわざ``ユビキタス(偏在)``使って分身を夜食の差し入れやら、朝の迎えによこすなんざ、ハルケギニアの長い歴史を紐解いても、ハルケギニア中を探しても、あんただけだろうね・・・」
『偏在』。風系統のスクウェアクラスのメイジでもさらにその限られた、ほんの僅かな一握りの優秀なメイジにしか扱えないという、離れた場所にでも己の分身、実体を作り出すとされる高等魔法。
・・・のはずなのだが、マチルダから問われても「へ~そうなの?」と言ってまた、あっけらかんとした他人事よろしくな素振りで、優はまるで己の能力の価値を気にしてはいない様子。
「そうかな?ん~、そうかも・・。
いや、才人がいたの嬉しくてさ。休み時に長旅に疲れてるテファ連れてくのもかわいそうだったから、つい調子に乗って張り切っちゃった」
それだけ言うと優は胸に手を当てて目を閉じ、何かを確かめるような仕草をする。
「ん~・・でも、もうあんまりできそうにないや。
もうじきテファの耳、隠せなくなっちゃうかな。そしたらまた``風``お願いね?」
「あんたが無駄遣うからだろうに」
「う~、次から気をつけるよ・・・」
「まったくだよ・・いいかい?いつでもどこでも私がいるわけじゃないんだ。
親類に気を配るのは結構だけどね、肝心なところがおろそかになってりゃ世話ないんだよ?」
「はい・・・」
マチルダから窘められて、優はすっかり縮こまってしまった。
そうするうちに、マチルダは一番に問いただそうと思っていたことを思い出した。
「そういやユウ?あんた、テファにあの事は話したのかい?」
それを聞くなり、しょんぼりしていた優は真面目な表情をすると、
「いや・・言えないし、きっとこれからも言わないよ」
「どうしてだい?」
「ん~、ねえさんが教えてくれたのには確かに驚いたけどね。
でも・・結局はどっちも『かもしれない』って話だしさ、もしテファが使い魔のこと聞いたらどんなんなるか・・」
それを想像すると、肩を窄めて優は苦笑いを浮かべる。
「あまり考えたくないなぁ。なんせテファだしね。
それにこんなの、体のいい脅迫だよねぇ。
僕はいずれどうなるかわからない、だから僕に縛られろってとこかなぁ。
そんなの嫌だよ。こんなのテファを苦しめるだけだね、きっと」
まさか、この子は・・・とマチルダは思った。
「ユウ・・・あんた・・」
「ん?」
「テファを抱いてないのかい?」
直球、ど真ん中である。
優は口の端をひくつかせ、表情を引きつらせ、呆れた様子で、
「・・・ねえさんもまた、聞き難いことをはっきり言うねぇ・・・」
「私のことはいいの。いいから答える!」
仕方がなしに優は昨夜の、ありのままを語った。
「抱くって・・抱ける訳ないよ。第一、テファの気持ちが僕に向いてるかどうかもわからないのに・・・。
昨夜はもう大変だったんだよ?自分抑えるのに必死だったんだから・・・」
そう言うなり、優は袖をまくって片腕をあげると散々つねったのだろう、腕の一部分が爪の先を無数に象って赤くなったあざが見えた。
マチルダはふぅと一息つくと、なんだか満足げな表情を浮かべる。
「ま、だろうとは思ったよ。私の見立ては間違ってなかったね。合格だよ」
「合格って、なに?僕試されてたの?」
「そ。ここで欲望に負けるようじゃ、あんたの器もたかが知れるってね」
「ひ、ひどいなぁ。僕がもし負けてたら、テファどうなってたと思うのさ」
「そこはそれ。ここは女子寮。そして女には声って武器があるからね。いざとなったら・・・」
おおよその察しはついた。だが、それ以上を連想するのが怖くなった優は、
「あ、その先は言わないでいいです。聞くのがこわい・・・」
くすりと口元に笑みを浮かべると、今度はマチルダは感心したように、
「にしても、大したもんだねぇ。まさかテファと二人きりの一夜を堪え抜くとはね。
あんた、まさか男色のケでもあるんじゃなかろうね?」
嫌な指摘に優は慌てて両の手を力一杯振って否定する。
「まさか!!僕はひとりの男として、そしてひとりの女性として、テファのことが好きだよ。ほんとうにさ。
ほら、十人十色っていうでしょ?
いろんな人がいる世の中なら、たまには僕みたいなのがいてもいいんじゃないかな。
それに自分で言うのもなんだけど、僕が欲望丸出しにして、がっついてるのなんて・・似合わないでしょ?」
それだけ言うと優は、はにかむように照れ笑いを浮かべる。
屈託のない、穏やかな笑顔だった。
それもそうかしらね?とマチルダは思った。
実際、欲に眼が眩む彼の姿なぞ、考えにくかった。
あったとしても、なんだか安い芝居のようなものが脳裏をよぎって、なんだか滑稽に思えて、思わず吹きだしてしまいそうになった。
部屋からあの唄が聞こえてきた。
ティファニアが優を慰めるように、その大きな胸で彼を包み込むように抱きながら子守唄を歌っているのだ。
横に浮きながら笑いを堪えているマチルダの様子に気付くこともなく、優は中空の先、青と緑の地平線に目をやると誰ともなしに呟いた。
「・・杖、か」
「なんだい、急に?」
「いや、なんか・・よかったと思ってさ」
「よかった?」
今度は何を言い出すのだろう、この能天気は?
「・・ここじゃ魔法に使うものってのがほとんどで、あまりメジャーじゃないみたいだけど、僕のいたとこじゃ『杖』って人を支える杖ってのの方が一般なのね」
「それがどうしたって言うのさ?」
「テファが唄ってくれたんだけど、僕が授かったコレさ、これって『杖』って意味も持ってるみたい」
「ああ、``神の杖``ってヤツだね。私もあの子の唄に聞いた程度で、あまり詳しくはないけどね。そう聞いてるよ。始祖に仕えた四人の僕の一人だってね」
「そう、それ聞いて思ったんだ」
「なにをさ?」
「う~ん、例えるなら・・そうだなぁ・・・そう、テファが花なら僕は花を咲かせる根っこがいい」
「は?根っこ?」
「そう。もし根っこがダメなら・・ん~と、そうだなぁ。葉でもいいし、茎でもいいかな。
それもダメなら・・土でも、水でも、風でも・・・とにかく、テファを支えるなにかがいい。
テファを傍で支えることができる。そんななにかに、僕はなりたい」
「ユウ・・あんた・・・」
まさか、この子はもうルーンに・・・?と優の言葉を聞いていたマチルダは危惧した。
だが、そんなマチルダの考えを否定するように、
「・・・僕は、ひどいね・・・」
「?」
「テファを縛りたくないなんて、格好いいこと言っといて、一番テファのことを縛りつけるようなこと言ってる。
テファは誰のものでもない、ひとりの女の子なのにね・・・。
ほんと、勝手だよね・・・」
優は珍しく自嘲気味にそれだけ語り終えると、軽く握ったままの片手を見つめている。
横で聞いていたマチルダはおもむろに尋ねた。
「ユウ?女が一番に男に求めるのはなにか知ってるかい?」
唐突に聞かれて、少し戸惑い気味になりながらも口に出して優は考えた。
「え?一番ねぇ・・う~ん、なんだろ?宝石とか・・お金じゃない、よねぇ。やっぱり。
ん~、地位や名誉・・じゃ男のアレだしなぁ。なんだろ?」
やれやれとばかりに両手を挙げてマチルダは呆れた様子を見せる。
「ハァ、これだよ・・・。ま、だろうとは思ったけどさ。あんた、分かってるようで分かってないねぇ・・・。あんた恋愛経験ないだろう?」
図星だった。ズバリを言われて、若干凹みながらも優は応える。
「そ、そうだけど、そうかなぁ・・・?」
「女が一番欲しいものが金や宝石?地位や名誉だって?馬鹿馬鹿しい、そんなもんで事足りるのなら世の中平和さね」
「う~ん、確かに・・・」
そうかも。と優は思う。
「一番欲しいものっていったら、それは形あるものなんかじゃない。かと言って地位や名声でもなけりゃ、ましてや富でもないのさ」
何だというのだろう?もう、あらかた人が欲するものは出たような気がする。
優はごくりと唾を飲んで尋ねた。
「いったい、なんなの?それって?」
緊張気味な優を知ってか知らずか、彼の胸中にまるで相反するかのようにあっさりとマチルダは述べる。
「それはね。『常に自分を一番とみてもらえること』、これさ」
「え?そんな、かんたんなの?そんなかんたんでいいの?」
優はなんだか拍子抜けしてしまった。
「かんたんなもんかい、世の中これができる男がどれだけいることやら・・。
あんた、逆に聞くがね。これができずに愛想尽かされるって男が世の中どれだけいると思うんだい?」
「う、う~ん・・・」
「『好きだ、愛してる』なんてな、男からそれこそ星の数ほど贈られた台詞さ。
なるほど。確かに言うは簡単だし、聞こえもいいけどね。
いざ伝えて、それが叶えばそれで興醒め。はい、おしまい。その後は飽きて捨てるなり、さっさと他所の女に目移るのが男ってもんさ。
いや、なにもそれに限った話じゃないね。
想いが通らぬとあれば、届かぬ花より手頃な花。
想いは届けど、今となっては枯れしぼんだ花よか、今を咲き誇る花を愛でるってね」
「そ、そうかなぁ?」
「特に貴族の男共なんざ、そんなもんさ。
なまじ身振り手振りで大概のことは叶うもんだから、なお性質(タチ)が悪い。
一目気に入ったとくりゃ、あの手この手とやりたい放題さ。さぁお手元どうぞとなると、それだけに飽き足らずに妾やら側室やら、とにかく節操なんぞあったもんじゃない。
結局、連中は女を絵画かなんかとしか、欲の捌け口としか見ちゃいないのさ」
「そんな・・・そんなことって・・・」
「あるのさ。ない方が不自然てもんさね」
「・・・・・・」
「・・・かあさまは、どうだったのかしらね・・・」
言葉を失ってしまった優を尻目に、マチルダは小さく呟く
「え?」
「なんでもないよ。ま、そう一概に言えたことじゃないのも確かさ。
中には例外もいるかもしれないね。あんたが言うように『たまには』ってヤツがさ。
できれば世の中そうあってもらいたいもんだね。同じ女としてさ。
・・・さて、ユウ?あんたはいったいどのクチだろうね」
「僕?僕は・・・ね」
優が言い終わるより前に、窓がキィと開いてティファニアが間に割ってきた。
「姉さん。そんなところでなにをしているの?」
ティファニアが声をかけるより前に、優はそこから姿を消していた。
マチルダは何事もなかったように、すました様子で、
「いやね。いい朝だったもんだから、外を散歩がてら迎えに来たのさ。
したらどうだい?いい年こいた男がいい女の胸借りて泣き崩れてるんだ。入るに入れなくてね」
「も、もしかして見てたの?」
ティファニアがおそるおそる尋ねる。
「仕方ないだろう?安い芝居じゃあるまいし、歌でも歌えって言うのかい?」
「そ、そんなこと!」
マチルダの言葉に照れて赤面してしまうティファニアの反応を見るより前に、
「さ、テファ?そこの泣き虫と顔を洗っておいでよ。そんな格好じゃ朝飯も食べれやしないからね」
「え、ええ・・・?」
優とティファニアが部屋を出た後、マチルダは視線を青空にやると、まんざらでもない様子で、
「まったく、あれだけのもん持ち合わせているのなら、女ひとりの気持ちくらいどうとでもなるだろうに・・・。
謙虚なんだか、間が抜けてるんだか・・・。
まぁ、そんなあんただから私も気に入ったんだけどね」
そんな風に呟く彼女の髪を、爽やかな春の風が緩やかに撫で上げる。
ねえさんが教えてくれたこと、答えはテファと見つけるよ。
それが僕の答え。だから今は、それでいいんじゃないかな。
穏やかな春風は、確かに彼の言葉を彼女に届けていた。
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こんばんは、ヤンマーです。
このお話の主人公であるユウが担う使い魔「ラドゥスヴィル」。
この使い魔についてのご意見をいくつかいただきましたので、今回はこの「ラドゥスヴィル」について少しお話させていただこうと思います。
まず、この物語を考えた当時はティファニアが原作では「名前の記されていない使い魔」の主になるであろうという展開が主流でした(現在では違う可能性もありますが・・・)。
ティファニアをメインにお話を組み立てるとなると、自然と名前も能力も判らない謎に包まれた使い魔を主人公に持たせてみようという発想に至りました。
ガンダールヴは武器、ヴィンダールヴは獣、ミョズニトニルンは魔道具を操るといった具合にそれぞれ個性的な能力を持っています。
残りの一つはどうしたものかと考えた末、魔法を操る使い魔なんてどうだろう?と思いついたのがまず最初でした。
漠然と能力は考えついたものの、今度は使い魔の名前、そして「望郷の唄」にどう辻褄を合わせようかという問題にぶちあたりました。
原作の使い魔の名前はそれぞれ北欧神話の精霊からとられています。
それに習って、ある精霊の名前から考え出したのが「ラドゥスヴィル」です。
使い魔はあくまで始祖に仕える存在であり、能力が始祖を上回ってはいけないと判断した結果、「ラドゥスヴィル」の基本的な能力は系統魔法を自在に操ることとしました。
お話の中ではまだ明記していませんが、「杖」であるため自ら詠唱は行えないなどの制約があります。
この能力の他にも未だ発動していない未知の能力が・・・。
それは今後の展開で描いていく予定です。
もし「ガンダールヴ」VS「ラドゥスヴィル」となったらどうなるの?といった旨のご質問をいただきましたが、この答えにつきましては今後の展開のネタバレになってしまう為、今回は伏せさせていただきたいと存じます。
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第16章~トリステイン魔法学院~ 第二幕 ~ルイズとサイト~
彼の名前は平賀 才人。17歳、高校2年生。
優と同じ黒色の瞳と髪を持つ少年。運動神経は並、興味があることに打ち込むタイプで、成績は中の中。
性格は負けず嫌いで、義理堅くて、好奇心旺盛で、所謂考えるより行動が先に出るタイプ。
母親曰く、「もうちょっと先のことも考えなさい。あんたは人並み以上にヌケてんだから」
ヌケているだけにアクシデントに動じることが少なく、割と何でも受け入れる方である。
優がティファニアに召喚されたのと時を同じくして、彼がこの異世界ハルケギニアにやってきたのは、トリステインでも指折りの名門貴族の子女であるルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエールにより魔法学院の春の2年生進級の儀である『使い魔の召喚』によりこのハルケギニアに召喚され、右も左もわからぬまま、ほとんど強制的に主であるルイズに使い魔の契約を交わされた為であった。
ハルケギニアに召喚され使い魔の契約を交わされたというところまでは、優となんら変わらないのだが、優と才人には天と地ほども差のある大きな違いがあった。
一言で言うと、それは『主と使い魔の関係』。まさにそれである。
優がティファニアに召喚されたその日の晩のこと、二人の関係は『お友達』になることから始まった。
対して才人とルイズの関係はと言えば、『お友達』どころか彼の主であるルイズは、才人を人間扱いすることすらままならぬまま・・・そう、まるで犬や猫と同じような、ある意味、使い魔の肩書きにもっとも見合っていると言えるような関係から始まっていた。
先ずは二人が出会った時の様子を描いてみよう。
物語はルイズが才人を召喚した日の晩、トリステインは魔法学院の女子寮の一室。
「そんな話、信じられないわ」
開口一番、万人が万人に可愛らしいという印象を与えるルイズの小さな唇は、才人の全てを否定した。
「オレだって信じられねぇよ。でも月が二つもあるんじゃ信じるしかねぇよ」
「それって、どういうこと?」
「オレのいたところじゃ魔法使いなんて、少なくともおとぎ話の中にしかいなかった。
月も一つしかなかったな。それにもっとちっさいの」
「そんな世界、どこにあるの?」
可愛らしい顔に似合わぬ疑惑と不信の表情を浮かべながらルイズは尋ねる。
なかなか要領を得ようとしないルイズに才人は苛立ちを隠さぬまま、
「だからオレがいたところだっての!」
才人は怒鳴った。
「怒鳴らないでよ。平民の分際で」
「誰が平民だよ。失礼な」
「だって、あんたメイジじゃないんでしょ。だったら平民じゃないの」
「なんなんだよ。そのメイジとか平民ってのは?」
「もう、ほんとにあんたこの世界の人間なの?」
会話が振り出しに戻る。
才人はこめかみを引きつらせながら、
「だから!さっきから違うって言ってるだろがっ!人の話を聞いてねぇなお前」
才人が声を張り上げると、ルイズは切なそうにテーブルに肘をついた。
テーブルの上にはまるでウィスキーのグラスのような、幾何学模様の施されたランプが置かれ、薄暗い部屋を照らしている。
黙り込んでしまったルイズに向けていた才人の視界に、淡く揺れる緑の光が映る。
どうやら電気は通ってないらしい。
まったく、手の込んだつくりしてるじゃないか。昔、家族旅行した時に行った異人館の中みたいだ。ほんとに中世に迷い込んじまったみたいだよなぁ、などと才人が思ったその瞬間、彼の心から帰郷の念がとめどなく溢れ出した。
才人はこの上なく切ない声でルイズに懇願した。
「お願いだ。そろそろ家に帰してくれないか?」
「無理」
即答で一蹴されてしまった。
「・・・なんでだよ」
「だって、あんたはわたしの使い魔として、契約しちゃったのよ。
あんたがどこの田舎モノだろうが、別の世界とやらから来た人間だろうが、一回使い魔として契約したからには、もう動かせない」
つまり才人はこれまでの人生、彼の世界から、突然に、唐突に、何の前触れなく切り離されたということになる。
「ふざけんな!」
いい加減、才人の感情のタガもはずれかかるところまできていた。才人の声は怒鳴り声というよりは慟哭に近いような状態になっている。
ルイズは負けずに大声で、
「わたしだってイヤよ!なんであんたみたいなのが使い魔なのよ!」
「だったら帰してくれよ!今すぐ!」
「だから無理だって言ってるでしょ。・・・それよりあんた、ほんとに別の世界から来たの?」
「だからそう言ってるじゃねえか!」
「なんか証拠を見せてよ」
言われて、才人は何か証拠になりそうなものが何かないか、自分の所持品を思い浮かべる・・・までもなかった。自分の持ち物と言ったら一つしかない。
「なにこれ」
「ノートパソコン」
後で自分が横たわっていた草原で見つけた、唯一の持ち物。
「確かに、見たことがないわね。なんのマジックアイテム?」
「魔法じゃねえ。科学だ」
現物を見せても信じる素振りを見せないルイズの質問を一口で返すと、才人は電源をつけた。ブーンとノートパソコンが小気味のいい音を立てて起動し始めた。
「うわぁ・・・。なにこれ?」
「起動画面」
「綺麗ね……。何の系統の魔法で動いてるの。風? 水?」
さっきとは違う、きょとんとした無邪気な表情でルイズは才人を覗き込む。
「だから魔法じゃねえっつうに。科学だ、科学。電気だよ」
「デンキって、何系統?四系統とは違うの?」
才人は両手を上げてぶんぶんと上下に振るう仕草をする。まるで理解を得る気配のないルイズの発言が鬱陶しくなってきた様子。
「あぁもう!とにかく魔法じゃねえ!」
才人の様子を気にかけることもなく、ルイズはベッドに深く座り込むと、つまらなそうに足をぶらぶらさせながら両の手を広げると、すました顔で、
「ふーん。でも、これだけじゃわかんないわよ」
「なんで?こういうの、こっちの世界にあるのか?」
さすがに才人の当然の疑問にはルイズも認めざるを得ないらしく、唇を尖らせながら、
「ないけど・・・」
「だったら信じろよ!わからずや!」
ああもう!とルイズは勢いよく首を振り、大きくため息をつくと、
「わかったわよ!信じるわ!」
「ほんと?」
腕を組み、首を傾げてルイズは怒鳴る。
「だってそう言わないと、あんたしつこいんだもん!」
アレ?結局、わかってなくね?と才人はガックリと両肩を落としながらも、
「まあ何にせよ、わかってくれればいいや。そいじゃあ帰してくれるよな?」
「無理よ」
「なんで!?」
ルイズは困った顔になると、才人にとどめの一撃を放つ。
「だって、あんたの世界と、こっちの世界を繋ぐ魔法なんてないもの」
「じゃあ、なんで俺はこんな所にいるんだよ!」
「そんなの知らないわよ!」
もう今日だけで何度目になるのだろうか?ルイズと才人は睨み合うが、それはルイズのついたため息であっけなく終戦を迎えた。
「あのね。ほんとのほんとに、そんな魔法はないのよ。大体、別の世界なんて聞いたことがないもの」
「自分で召喚しといて、そりゃないだろ!?」
まったくである。
「召喚の魔法、つまり『サモン・サーヴァント』は、ハルケギニアの生き物を呼び出すのよ。
普通は動物や幻獣なんだけどね。人間が召喚されるなんて初めて見たわ」
「召喚したのはお前じゃねえか・・・だったら、もう一度、その召喚の魔法を使え」
「どうして?」
「元居たところに戻れるかもしれない」
「――無理よ。『サモン・サーヴァント』は呼び出すだけ。
あんた、呼び出される前になんか見なかった?」
「鏡みたいな何かが目の前に出たけど・・・」
「それよ。召喚に応じそうな相手の前に門を、つまり``ゲート``を作り出す魔法なの。
使い魔を元の場所に戻すことは出来ないわ」
「いいからやってみろよ。試したことはないんだろ?」
「ないわよ。そもそも、今は唱えることすら出来ないもの」
「どうして!」
「『サモン・サーヴァント』の発動条件はね」
「うん」
「詠唱するメイジに、使い魔が居ないことが条件なの。たとえば、前の使い魔が死んじゃったー、とかね」
「・・・なんですと?」
「死んでみる?」
「いえ・・・間に合ってます」
拙い希望も儚く散り、才人はがっくりと頭を垂れる。ちょうどルーンの刻まれた左手が目に入った。憎々しげにそれを見ていると、ルイズは立ち上がり腕を組んで一言告げる。
「ああ、それね」
「うん」
「わたしの使い魔ですっていう、印みたいなものよ」
そう言われて、才人は改めてルイズを見つめる。口さえ開いてなけりゃ、確かに可愛らしい。すらりとのびた足、細い足首が支える体はそんなに大きくない。身長は150あるかないかといったとこだろうか。
フワリとした柔らかそうな桃色をしたブロンドの髪、まだ幼さを残す顔立ちにまるで子猫のようによく動く目、その真上にはいかにも生意気そうな微妙なラインを描いた眉が走っている。
出逢ったのが出会い系の掲示板でもあれば跳ね上がって喜んだものだろうに、と思ってはみるものの、ここは日本でもなければ地球ですらない。帰りたいけど帰れない。才人は切なくなって椅子にへたり込んでしまった。
部屋にしばしの沈黙が流れた。
「……しかたない。しばらくはお前の使い魔になってやるよ」
まるで気のなさそうな声で才人は承諾する。
「なによそれ」
「なんか文句あんのか?」
「口の利き方がなってないわ。『なんなりとお申しつけください、ご主人様』でしょ?」
ルイズは得意げに指をたてて言った。
仕草は可愛らしいのに、それを見る才人の表情は腹立たしさを表すように口元がひくついていた。
「へいへい。ところで、使い魔って何すりゃいいんだ?」
「まず、使い魔には主人の目となり、耳となる能力が与えられるはずよ」
「それって?」
「使い魔が見たり聞いたりしたものは、主人にも見えたり聞こえたりすることが出来るのよ」
「つまり、プライバシー皆無ってこと?」
「大丈夫よ、あんたじゃ無理みたいだから。わたし、何にも見えないし聞こえないわよ?」
「そうか、そりゃよかった」
「よくない!・・・まあ、人間がこんな能力持ってても使い道ってそうそうないわね。次」
ルイズはこめかみを押さえて、ため息をつく。
「普通の使い魔は、主人の望むものを見つけてくるのよ。秘薬とかね」
「秘薬って?」
「特定の魔法を使う時に必要な触媒のことよ。硫黄とか、結晶石とか・・・」
「へぇ」
「これもあんたには関係なさそうね。秘薬の存在すら知らないんじゃどうしようもないし」
「まぁ、無理だな」
「次」
ルイズは苛立たしげに言葉を続ける。
「これが一番重要なんだけど……、使い魔は、主人の護衛でもあるのよ。その能力で、主人を敵から守るのが役目!・・・って、これもあんたじゃ無理よね?」
才人が柔道や空手の有段者でもあればまだいくらかは違ったかも知れないが、優と同じく彼は完全なド素人だった。
優と違っていることと言えば、せいぜいマジのつく喧嘩が2~3度あるだけだった。
「人間だもん・・・」
「・・・強い幻獣だったら頼れるんだけど、あんたじゃカラスにも負けそうだもんねぇ」
「うっせ」
「だから、あんたにできそうなことをやらせてあげる。洗濯、掃除。その他雑用」
「ざけんな。見てろよ、そのうち絶対帰る方法を見つけてやるからな!」
「はいはい、そうしてくれるとありがたいわ。
あんたが別の世界とやらに消えてくれれば、わたしも次の使い魔を召喚できるもの」
「んにゃろ・・・」
才人の決意も軽く聞き流してしまったルイズは、片手を口に当てて小さなあくびをした。
「はぁ。しゃべったら、眠くなっちゃったわね」
「俺はどこで寝たらいいんだ?」
ルイズは毛布を一枚引っ張り出すと、他所を見ながら床を指差した。彼女の言いたいことを嫌が応でも察した才人はもはや達観したような表情で、
「・・・犬や猫じゃないんだけど」
「しょうがないじゃない。ベッドは一つしかないのよ」
唐突にワケのわからぬ異世界に召喚されて、帰る術すら持たぬまま床に雑魚寝を強いられる才人。ちなみに優は造りこそ粗末だったが、布団のある木造のベッドだった。
毛布を一枚投げてよこしてくれるだけ、マシといったところだろうか。 才人の主人であるルイズ。彼女なりに気を使ってくれたのかもしれない。
大きくため息をついて毛布を広げていると、いきなり才人は度肝をぬかれた。
ルイズのほうに目をやったら、ルイズがブラウスのボタンを尽く外して脱ぎ去ろうとしていた瞬間だったからだ。
才人の時が数秒ほど止まった。そして、再起動。
「な、な、なな、なにやってんだ!?」
慌てて他所を向きながらルイズに問い質す。
「なにって、寝るから着替えてるのよ」
「俺のいないところで着替えろよ!」
「なんで?」
「なんでって、おま、あのな。まずいだろ!流石に!」
「わたしは別にまずくないわよ」
「なんで!?魔法使いってそうなの!?男に見られても平気なの!?」
「男?誰が?あんたはわたしの使い魔でしょ。使い魔に見られてもなんともないわよ」
こともなげにそう言い放つルイズ。そして、ぱさり、ぱさりと才人に向かって何かを投げつけた。
「あ、それ明日になったら洗濯しといて」
なんだろう、と思って床に座り込んで取り上げてみたが、それが間違いだった。レースのついたキャミソール。そして、パンティ。白い。純白。精巧で緻密なつくりをしているなぁと、才人の沸騰した頭が手にした下着類を丁寧に見定めている。
それから急に歓喜と、屈辱と、恥辱が入り混じったなんとも形容しがたい感情が胸の奥からとめどなく溢れ出た。
「ふざけろ!なんでオレがお前の下着を!!いや!嬉しいけど!!でも、ふざけるな!!」
数えるのも愚かしくなるような才人の怒号がまた部屋に響く。しかしルイズは意にも介さず、ピンク色の透き通ったネグリジェを頭からかぶろうとしながら、
「誰があんたのご飯の面倒みるの?誰があんたを養うの?ここ、誰の部屋?」
「うぐ」
呆気なくルイズに一蹴されてしまい、才人は言い返すこともできなくなってしまう。才人に言いながら着替えている間、才人の目の前にはルイズの細やかな肢体が露わになっていた。ランプの淡い光ではっきりとは見えないが、年頃の美少女が年頃の少年の前で文字通り一糸纏わぬ姿を晒し、なおかつ寝巻きに着替える様をご丁寧に一から順に披露してくれていたのである。
ルイズは本当に才人に肢体を見られても、恥ずかしくもなんとも思っていないようだ。なんだか悔しいと才人は思う。人として、男として、全てを否定された気分だった。自分の全てを否定され、ただただ落ち込む才人にルイズは当然といった様子で声をかける。
「あんたはわたしの使い魔でしょう? 洗濯、掃除、雑用、当然じゃない」
それだけ言うとルイズはパチンと指を鳴らす。
すると指音にあわせるようにランプの灯が消えて、部屋は暗闇に包まれた。
ランプまで魔法仕掛けかよ・・・確かにこりゃ電気いらんわなぁ。
などど暢気な考えを巡らせながら、才人は床に横になった。
そしてすぐ傍のベッドで眠りはじめたルイズに目をやると、
「はぁ。こいつ、絶対俺のこと犬かなんかと思ってやがるな……。毎日こんなんじゃ、身がもたねぇよ」
もう、今日何度目なんだかわからないため息をついて、天井を見上げる才人。
「帰れねぇ、んだよなぁ……」
こぼれた声は、悲壮そのものの音をかたどっていた。
もう、好物は食べられない。てりやきバーガーなんてものが電気すらない世界にあるとは思えない。
もう、ノートパソコンは使えない。インターネットなんて存在してるわけもない上に、そもそも充電ができない。
もう、友人にも、家族にも会うことは出来ない。みんな、向こうの世界にしか居ないのだから。
考えれば考えるほど、哀しみに押し潰されそうになっていく。涙がこぼれそうだった。帰れないだけならまだしも、いや、全然まだしもなんてものじゃないのだが、今はそれは置いておこう。
目下の問題は、暗くなった部屋で小さく寝息を立て始める可愛くもかわいくないルイズと名乗る少女であった。
逃げ出そうか?とも考えたが、逃げ出したとしてどうするアテもない。他所の人に帰り道を尋ねたところで、彼女の反応を見るに変人か気違い扱いされるのが関の山だろう。こうなるともう、本当にどうしようもない。
絶望感に打ちひしがれて、才人は毛布を頭から引っかぶった。寝心地はよくない。なにせ敷布団は手造り感溢れるフローリングなのだから。5分と経っていないのに、もう背中が痛みを感じ始めた。
痛みを紛らわそうと毛布を全身に包めて、まるでみの虫のような格好をとると、段々痛みは大分和らいできた。思いのほか人間は逞しくできているもので、痛みが和らぐと今度は眠気が先に立ってきた。
眠気が先に立つと、先程まであれだけ打ちひしがれた絶望もなりを潜め、持ち前のプラス思考が心を包み始めた。それは思考を軽く上回る速さで揺り動く状況に、自ら心に安全弁をかけているとも言えるかもしれない。
確かに今は帰れないけれど、この世界には前の世界にはなかった面白いことがたくさんある。
どうせ帰れないんなら、この世界を出来る限り楽しんでみようじゃないか。
うん、そうしよう。
良くも悪くも高い彼の順応性は、どうやら彼を守り抜いたようだ。
こうして才人の使い魔としての生活が始まった。
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幕間~小さな勇気~
深夜、動くものの無い夜のラ・ロシエールの港町。
港の一角にある一軒の宿屋の一部屋。
部屋の両端に据え置かれたベッドの片方には新緑色の髪をした女性と亜麻色と薄い赤の髪をした少女が二人、すやすやと寝息をたてている。
もう片方のベッドには美しい金髪の妖精と男の子が三人。
子供達は皆寝付いているようだ。
それなのに金髪の妖精、ティファニアはなかなか寝付けずにいた。
理由はわかっている。
さっき外で使い魔の青年に言われたことが原因だ。
そればかりが頭の中を空回りして、どうにも眠ることが出来ないのであった。
「綺麗なんて、もう言わないでって言ったのに・・・。
私そんなに綺麗じゃないわ・・」
ため息混じりに小さく呟くティファニア。
当初は自分の一方的な約束を一方的に破った優に憤りを感じていたのだが、やがて冷静になってみると彼は何も悪くないことに気付く。
そればかりか、彼は自分を褒めてその上励ましてくれたではないか。
「・・・自分を好きになる・・・か」
彼から貰ったもうひとつの言葉。
考えても見なかった。
これまで森と子供達に囲まれた生活を送ってきた自分に出来た初めての同世代、それも男の子のお友達。
とても優しくて、穏やかで、どこか他人の気がしない不思議な雰囲気を持つ使い魔の青年。
初めて出逢った時は怖かった。
この人も``エルフ``の血が流れる自分を恐れるのだろうか。
私はまた誰かから疎ましくされるのだろうか。
悲しき過去が、自らの生い立ちが、見えない恐怖がティファニアの心を苦しめる。
・・・でも彼は違った。
彼は世界から疎まれているはずの私を``綺麗だ``と言ってくれた。
彼は友達になってくれた。
人攫いに攫われた時。
もうだめだと思った時。
心の中には、出会って間もないはずの彼がいた。
そして彼はその身を省みずに自分を救い出してくれた。
彼は死ぬかもしれないという目に遭ったというのに、まるで攫われた自分を励ましてくれるかのように笑ってみせてくれた。
そういえば彼にきちんとお礼を言ったことがあっただろうか?
ウェストウッドの森を出てから周りの生活の変化が慌ただしすぎて、きちんとお礼を言うことが出来なかった気がする。
彼に謝らなければいけない。
さっきの約束だって、お互いにきちんと交わした訳ではない。
こっちが勝手にしたものだ。
``・・でも、どうやって切り出したらいいのかしら?``
さっきは振り切るような格好で、半ば強引に別れてしまった。
彼は怒っているだろうか?
口を聞いてくれなかったらどうしよう。
気まずい。
とても気まずい。
大分慣れた相手とはいっても、基本は引っ込み思案な性格のティファニアは頭の中で持ち前のマイナス思考をフルスロットルさせていた。
実際には意中の相手はパンを頬張りながら、約束の事をなんとか思い出そうとしている程度で、さして気にしてはいないのだが・・。
そんな事とは露知らぬ金髪の妖精。
思考を巡らせてるうちに、部屋のドアが閉まる音が聞こえた。
「・・・?サム?」
傍らに目をやると、さっきまで寝息を立てていたはずの少年が、ひとりいないことに気付く。
残りの二人を起こさないようにそっとベッドから起きると、ティファニアの豊満な身体を緩やかに覆うように包み込んだヴェールのような寝巻きの上にガーディガンを羽織ると、小さく聞こえる足音を追って外に出る。
外から話し声が聞こえる。
こんな夜更けにどうしたのだろうと物陰から聞き耳をたてると、優とサムの話し声が聞こえてきた。
「・・・ユウにいちゃん」
「ん?」
「ボク、にいちゃんにずっとあやまらなきゃって思ってたの」
「謝るって、どうしたの突然?」
「・・ボクたちがひとさらいにさらわれたときにね、テファねえちゃんにユウにいちゃんの悪口いったの」
「悪口?」
「・・うん・・。あのね、にいちゃんが悪いやつらにテファねえちゃんのこと教えたんだって、にいちゃんがこいつらよんだんだって・・・そういったの」
「・・・・・・」
「・・そうしたらテファねえちゃんにおこられちゃった。
にいちゃんは大事なおともだちよって。
だけどボク、ともだちなんかじゃないって・・そういったの」
「・・・そっか」
「?・・にいちゃん、怒らないの?」
「ん~、怒るっていうよりなんか寂しくなっちゃった。でも、それよりサムは偉いなって思った」
「・・え?」
「だってそうじゃない?サムがそれ謝ってくれなかったら、そのまま無かった事にもできたでしょ?」
「う、うん・・」
「・・だけどサムは勇気を出して謝ってくれた。
これってすごいことだと思うよ。僕がサムだったら何も言い出せなかったかもしれないよ」
「そ、そうかなぁ?」
「あんな怖い連中に囲まれて、それでもテファを元気付けようとがんばったんだね。
サムは偉いな。
きっと僕より勇気があると思うよ。それを謝るなんてなかなかできないよ?」
「・・・にいちゃん」
「そろそろお戻りよ、サム。テファが心配してるかもよ?」
「・・にいちゃん」
「ん?」
「にいちゃんはテファねえちゃんとケッコンしないの?」
それを聞いたティファニアの顔色が変わる。
声を上げそうになるのを必死に堪えて、なおも聞き耳をたてるティファニア。
「え?ケ、ケッコンねぇ?う~ん」
「ボク、前から思ってんだ。
ユウにいちゃんがパパで、テファねえちゃんがママで、それでみんなでいっしょにくらすの。きっと楽しいよ」
「う~ん、今はまだ無理かな?」
「え?どうして?にいちゃんはテファねえちゃんがキライなの?」
「いいや、好きだよ。だけどテファは自分のことが、まだあまり好きじゃないみたい」
「??どうしてねえちゃんが自分をキライだとダメなの?」
「う~ん、サムにはまだ難しいかもしれないね。
自分が自分を好きでないと、大切な人のことを本当に好きになれないって、僕はそう思うんだ・・」
「・・わからないよ、にいちゃん」
「アハハ、だよね。ごめんごめん。
さ、すっかり話し込んじゃった。サム、ダッシュだ。テファに怒られるよ?」
「うん!にいちゃん!また明日ね」
「ん~。おやすみサム」
物陰にいたティファニアは、それよりもはやく部屋に戻って、寝たふりをしていた。
そうしてまもなくベッド小さな影が潜りこむのがわかった。
``・・・自分を好きに・・か``
ティファニアは心の中で呟きながら、朝になったら一番に使い魔の青年に謝ろうと心に誓うと、まもなく小さな寝息をたてて眠りについていた。
夜明けまではまだ時間があった。
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